絶滅危惧種アオウミガメ保全活動報告2024(伊藤忠商事(株)様ご支援)
エバーラスティング・ネイチャーでは、小笠原海洋センターで行うアオウミガメの保全事業に対して、伊藤忠商事株式会社(本社:東京都港区北青山2丁目5番1号)様より2017年より継続してご支援を受けてきました。
産卵モニタリング調査およびふ化後調査の結果概要(2024年)
調査概要
小笠原諸島のアオウミガメ調査は2種類に分けられ、産卵巣数をカウントする「産卵調査」、どれほどの数の稚ガメがふ化したかを記録する「ふ化後調査」があります。アオウミガメの産卵状況の現状及び経年変化の把握に加え、産卵砂浜環境の継続的なモニタリングも同種の保全に欠かせません。
2024年のモニタリング調査は4月17日~12月1日まで行い、調査回数は父島列島計167回、母島列島計14回、聟島列島計6回でした(各列島の各海岸の調査を1回と数える)。父島列島では約60名、母島列島8名、聟島列島8名が調査に従事しました。
調査結果(2024年)
本調査は経年変化を把握するための調査になります。継続的に同質の調査データを得る必要があるため、2024年のモニタリング調査は、若い職員の調査技術向上を目的とし、調査手法や各フィールドでの地形知識等の引継ぎに力を入れました。
父島列島:昨年に引き続き、22海岸を対象に定期的に海岸踏査し、各産卵状況をモニタリング調査しました。父島列島で約1,700巣(前年比約128%)が確認できました。大村海岸を除く海岸の推定初産卵日は4月7日で、おそらく最後と推定される産卵日は9月7日でした。5カ月にわたる産卵期間の中で、5月上旬~中旬にかけてと、6月下旬~7月上旬にかけての2回、産卵のピークがありました。小笠原諸島の中でも随一のウミガメの産卵海岸として知られる初寝浦海岸では、昨年の約1.3倍となる300巣近い産卵巣が確認されました。大村海岸での産卵が例年と比較して多かったとことを鑑みると、この結果もうなずけます。その他、観光客の利用も多い宮之浜海岸(前年比260%)や扇浦海岸(前年比185%)でも産卵が昨年と比べても多く確認されました。
母島列島: 7海岸を対象に調査を実施し、約500巣のアオウミガメ産卵巣が確認できました。2023年、母島列島全体では280巣でしたので、2024年は倍近くの産卵があったといえます。平島では200巣を超える産卵が確認され、母島東部の大崩湾に位置する海岸では約100巣の産卵が確認されました。平島及び大崩で実に母島列島の7割の産卵を占めています。
聟島列島:8海岸を対象に調査を実施しました。昨年度約30巣だった本列島では、2024年に約40巣の産卵を確認。聟島列島では、父島の初寝浦海岸や母島の平島のように、海岸距離が長くて産卵に適したふかふかの砂が多量に存在する海岸が少ないため、産卵巣数は父島/母島列島と比べても少ない傾向にあります。
8年間のご支援によるモニタリング結果:
2017年から続いているご支援も8年目を迎え、小笠原諸島(父島列島、母島列島、聟島列島)における2017年~2024年の産卵状況を把握することができました。
全体として2019~2023年にかけて数が少し落ち込みましたが、2024年には減少傾向は見られませんでした。アオウミガメのメスは4年に1度のスパンで小笠原諸島に回遊し、産卵をすると言われています。2019年~2023年頃の落ち込みに、この産卵回帰のスパンが影響しているのかを明確に示すためには、やはり継続したモニタリングが欠かせません。乱獲により一度は、数十巣しか産卵がない年もあった小笠原諸島のアオウミガメ個体群。2000年代以降、産卵巣数は安定している状況ですが、今後も保全活動に尽力して参ります。
大村海岸の光害対策
海へ戻る際に明るい方向に向かう習性があるウミガメを、街の灯りで迷走してしまわないようにする対策を、今年も大村海岸で実施しました。
父島においてウミガメに対する光害が問題が発生するのは基本的に大村海岸ですが、近年は扇浦での通報も増えてきており、ここでの対策についても村役場へ掛け合いました。
光害対策と結果(2024年)
大村海岸における産卵は約260巣と昨年の2.2倍で、2016年の276巣に続く過去2番目に多い産卵を記録しました。
産卵巣の位置を特定すると共に、産卵上陸したウミガメに影響の少ない観察方法をお伝えするための夜間パトロールは、のべ87日実施しました。実際、対応した観光客数は640人でした。
この他、日中の調査ものべ62回実施しました。
光害対策としてふ化直前に移動した産卵巣の数は、211巣でした。内、約15400匹の赤ちゃんガメが人工孵化場でふ化し、光害の影響がない海岸から放流しました。
生態へ負の影響を軽減するための取り組みを今年度も実施ました(詳しい手法は2021年報告をご覧ください)。今年は昨年より3.5倍多い35巣に対して実施し、2,386匹を光害のない暗い海から放流しました。
卵を移動させない取り組みの範囲をひろげるために、今年度は木陰だけではなく植生際(草が生えている場所)も卵を移動せずにトリカルネットをかけることに挑戦しました。地上に出た赤ちゃんを日差しから守るため、寒冷紗をネットに施して実施しました(上写真右)。この取り組みについて、島民の方々への周知も根付いてきたので、ネットがいたずらされたりすることもなく、脱出したカメにも影響なく、スムーズに実施することができました。
人材育成及び地域との結びつき
エバーラスティングネイチャーでは海洋生物および自然環境の調査研究、保全、資源管理に関する人材育成にも力を入れています。毎年、島内外から多くの方々に本事業に携わっていただき、ボランティアや調査・研究に携わった経験が、未来の自然環境の保全や研究に携わる人員の育成にもつながっています。
伊藤忠商事様には2019年度にボランティアや研究者が利用するコンテナハウスも寄贈いただき、2024年も日々のフィールド調査の疲れを癒す憩いの場として重宝されました。また、2024年の1年で父島島外から52名のボランティアの方を受け入れました。
下は大学生から、上は還暦を過ぎた方まで、みなさま「ウミガメの保全に携わりたい」という気持ちは同じようです。また、24名の父島島内のボランティアの方も我々の活動に参加いただき、モニタリング調査、大村海岸のアオウミガメの卵の保護、人工ふ化場への卵の埋卵などをお手伝いいただきました。