セガマ・ブサール島にてふ化環境変化の実態把握と現地調査員の育成

【絶滅危惧種タイマイの大規模産卵地におけるふ化環境変化の実態把握と現地調査員の育成】
インドネシアのタイマイ産卵地セガマ・ブサール島では、保護活動を開始した1998年以降、例年順調に安定した数のふ化が見られていました。しかし2020年以降、天敵であるミズオオトカゲの食害などの影響により大幅にふ化率が悪化し、またコロナ禍の影響もあいまってふ化の実態が分からないじょうきょうでした。そこで本助成事業にて、ふ化に関する環境変化の実態把握と現地調査員の育成を実施しました。
←ミズオオトカゲ@セガマ・ブサール島
主に行った内容は以下です。
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①調査実態の確認および調査手法の見直し
・海岸環境変化の記録(写真記録)
・ふ化状況調査(ふ化後巣を掘り、ふ化状況を記録)
・オオトカゲの計数(方法を検討し、計数記録を開始する)
②被食・捕食以外の影響要因の排除(障害物の除去)
③現地調査員への指導
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←調査員
①調査実態の確認および調査手法の見直し
セガマ・ブサール島における赤ちゃんガメの脱出率(ふ化して地上に出てきた割合)の経年変化を、1998~2024年(1-3月)まで算出しました。
その結果、2001年の62.7%をピークに徐々に減少しています。2009年~2019年までは40%前後を示していましたが、その後2020年から激減し、近年は25%前後となっていることがわかりました。
脱出率が悪化した原因を探るため、ふ化状況のカテゴリーごとに近年の変遷を追ったところ、下記がわかりました。
・トカゲによる食害(ふ化前・ふ化後含む)が徐々に増加傾向にある
・高波による卵の流出は年により変動があり、近年微増している
一方で、赤ちゃんガメの脱出頭数の経年変化も、1998~2024年(1-3月)まで算出しました。
赤ちゃんの頭数は1998年以降、増加傾向にあり、一番多かったのは2019年の114,237頭でした。1999年~2005年は15,000頭前後だったことから考えると、非常に増えたことが分かります。
近年(2022-23年)は75,000頭前後ですが、減少したとはいえ多くの赤ちゃんウミガメを生産できています。
これらの結果より、現時点では天敵であるミズオオトカゲの食害に対する対策は不要であると考えています。
一方で、現場からは「大型のトカゲが増えている」「トカゲ自体も明らかに増えている」という声が上がっており、今後のためにもミズオオトカゲのモニタリングをすることとしました。
ミズオオトカゲの増減を把握するためのモニタリング方法を考えて、5月末~12月までの約半年間、現地監視員によるモニタリングを実施しました。
手法は、トカゲの目撃数をカウントすることとし、朝10時の毎月0の付く日(10,20,30日)に徒歩で海岸を1周し、目撃されたサイズ(成体・子供・それ以外)と海岸の区間番号を記録しました。歩くスピードはできるだけ一定にするように努めてもらいました。
結果、
各調査回で平均13頭(成熟5,亜生体3,子供5)が目撃され、最大26頭が確認されました。少なくとも島には9頭の成熟個体がおり、全体で26頭以上が生息していました。
また、子供の目撃頭数が多く、特に8~11月に多く確認されました。
②被食・捕食以外の影響要因の排除(障害物の除去)
チェンソーを用いて、ウミガメ上陸の障害となる流木や倒木等の除去をしました。
ウミガメが上陸の際に妨げとなって上陸できない、海岸上部に産めずに水没することを避けることで産卵成功率およびふ化率向上の目的で実施しました。
③現地調査員への指導
現地パートナー団体YPLIの職員が実施している調査精度の確認および調査手法を擦り合わせるため、共に調査を実施し、判断基準等のすり合わせをしました。
島に常駐している監視員の仕事ぶりも確認するため、毎日実施している産卵調査に同行し、調査遂行能力の確認もしました。さすがにベテランスタッフなので、比較的短時間で巣を見つけて番号札や記録ノートをつけていました。
セガマ・ブサール島は海岸といっても林の中での産卵が多く、ウミガメの足跡や産卵した跡はほとんど残りません。なので、正直どうして巣の場所が分かるのか不思議な場面もありました。
←現地常駐監視員による朝のルーティン作業(産卵巣に番号を付ける)
本助成事業で新たに始めたトカゲ調査(増減状況のモニタリング)は、現地パートナー団体および現地監視員に調査目的や手法を口頭で説明したのち、1回実地での手法の指導、2回自身で調査してもらい指導で同行するという形でやり方を指導しました。島を離れた後も現地監視員は継続して、きちんと報告してくれました。
④調査手法の見直し~まとめと今後
以上の結果および現地訪問を通して、下記のことが分かりました。
・セガマ・ブサール島の赤ちゃんガメの生産数は減少傾向にある。
・オオトカゲによる食害は増加しているがふ化後に掘り返されるケースも多い。
・ふ化後に掘り出されるタイミングが赤ちゃんガメの脱出前であればカメは死亡するため、実際の生産数はすくなくなる。今回の現地調査時にトカゲに襲われることなく無事に海へ戻っていく稚ガメを何回も確認することができた。つまり現時点では、ふ化後に食べられている赤ちゃんは多くないことが予想された。
←海に行く赤ちゃんを目撃
・ふ化率は減少しているが、稚ガメ生産数(頭数)としては2015年や2018年程度の生産はできており、現状ではオオトカゲ食害を回避するための人為的な対策は不要と考える
・近年変更した調査方法は稚ガメの生産量について実状の数値を算出できており、計算方法に問題はないことが確認できた
・コロナ禍で長期間現地調査が実施できなかった2020年および2021年の前半は本来の結果を示していない。実際はもっと多くの稚ガメが生産できていたと推測された
以上の結果より、現在実施している調査手法は変更無く継続していく方向で決定しました。
また、トカゲモニタリング調査はトカゲ頭数の増減を把握できる手法として有効であると考えられたため、今後も継続して様子を見ていこうとおもいます。
この事業は、大成建設自然・歴史環境基金の助成金をいただいて実施しました。