【インドネシア】ウミガメ産卵ビーチにおけるゴミ問題

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インドネシアに行くと、たくさんのポイ捨てごみを見かけます。
大きな物よりはこまごまとしたもの、例えば容器包装系のプラスチック、ペットボトル、海岸だとそれに加えて漁具などに使われる発泡スチロール、靴・サンダルなどが多いでしょうか。

ELNAの活動地、タイマイ保全をしている島々でも人里離れた無人島にもかかわらず大量のゴミがやってきます。
見た目が悪いのであまりゴミの写真をあげてこなかったのですが、実はウミガメの産卵海岸は、わりとゴミだらけです。海洋ゴミが何かと話題になっているので、実際にフィールドでウミガメ保全を実施している立場から、現場で見ていて海洋ゴミの産卵地への影響の実態はどうなのかという話をしていきたいと思います。

産卵時

ウミガメが両手(前肢)を使って大きく穴を掘ったり砂をかけたりするのですが、その時にペットボトルなどがあって「バリバリバリ!」と大きい音を立てながらゴミを砂から掻き出す音がしたり、ゴミの上に砂が当たって「ボコボコボコ」と大きな音がすることはしばしば。
ひっそりと産卵しているカメたちに若干申し訳ない気持ちになります。

人がいるところが産卵した場所

海岸清掃

ELNAのタイマイ産卵地では海岸清掃をします。特に母ガメの産卵の障害となる大きい丸太や倒木などの除去は大切で(母ガメを海岸の上部まで上がって産卵してもらうため)、チェーンソーをレンタルしたり人を雇用して大々的な除去も時々実施します。現地の監視スタッも日ごろから適宜ビーチクリーンをしてくれますが、絶えずゴミたちはやってきます。

海岸ゴミのウミガメへの影響

論文ではこれについていくつかの懸念事項が報告されています。たとえば、ウミガメは砂の中に卵を産みますが、砂ではなくマイクロプラスチックが厚く積もると砂の時とは孵卵温度が変わってしまう(ウミガメは性比が孵卵時の温度で決まるため生態に影響があるということ)ですとか、ゴミが母ガメや赤ちゃんが海岸を歩く際に障害になる(特に大きいゴミ)というようなことです。
ELNAの活動地では幸い、このような影響を実際に感じるような実例はありません。もちろんスタッフが気づいていないだけかもしれませんし、ゴミによる障害物があるせいで赤ちゃんガメが海へ帰る時間が少しだけ余計にかかっていることはあるのかもしれません。

では、ELNA活動地ではどんな状況なのか?

“産卵海岸におけるウミガメへのゴミの影響”について、ELNAでの状況では3つのケースを細かく見ていきます。

①母ガメが海岸に上陸・海へ帰る際の障害になるケース

ELNAの活動地では、母ガメの往来の障害になるほど大きいゴミが落ちていません。軽いペットボトルや容器包装系の小さいゴミが多いです。母ガメはゴミがあっても特に気にする様子もなく産卵行動をしています。
ゴミよりむしろ丸太などの人為的に伐採された木材や、自然の摂理でおこる倒木が障害になることがあります(上陸の際に母ガメの進行方向の前に横たわっていると、海岸奥の方にまで進むことができない)。また、隙間などに挟まって海へ帰れずに死亡してしまうケースもありますが、これもゴミではなく岩や木などに挟まってしまうケースしか見かけられていないです

丸太にはさまったタイマイ母ガメ(生存)

茂みのあたりで産卵したいタイマイはこのような丸太が障害に

②赤ちゃんガメが海へ行く際の障害になるケース

ELNA活動地では赤ちゃんガメの障害になるタイプのゴミ(障壁となって行く手を阻むほど大きいゴミや、大きさが小さくてもゴミが重なりあっているなど)が少ないためか、ゴミが障害になった事例を見たことがありません。また、網や輪っか状の引っかかりやすいものもほとんど落ちていません。
そもそも赤ちゃんは夜など通常は暗いときに地上に出て海へ行きますので、自然状態で海へ向かう瞬間を見る機会はほとんどないのですが、少なくともゴミが原因で死んでいる赤ちゃんを海岸で見たことは無いです。

↓↓↓タイマイが海に行く姿の動画はこちらから(前半赤ちゃん、後半お母さん)↓↓↓

ゴミにかぎらず自然物の障害も乗り越えて海へ向かう赤ちゃんたち

もしも小笠原で撮影されたこの状況(下の写真)のように、比較的大きいゴミが漂着していて赤ちゃんガメの行く手を阻んでいれば、それを乗り越えている間にカニなどの捕食者に食べられてしまうケースがあるのかもしれません。

小笠原で海に向かうアオウミガメ

ELNAのタイマイ産卵地の場合、ゴミではなくて自然物ですが、グンバイヒルガオという海岸に這うタイプのツル性植物に引っかかって何匹か死亡しているケースを見たことがあります。

グンバイヒルガオの中を通る赤ちゃんタイマイ(この時は無事海へ行けました)

また、人工的な光に惑わされて(赤ちゃんガメは明るい方向に誘引される性質がある)、海にたどり着けず死んでしまうケースもELNA活動地では見ることがあり、実質的にはゴミよりもこういったケースの方が死亡に直結する可能性がELNA活動地では高いです(それでも光の害は都会の産卵地より全然少ない)。

ゴミではなく死亡しているケースは稀に見ます

③マイクロプラスチックによる砂中温度の変化

先にも述べましたが、砂の代わりにプラスチックが積もることによって砂中にあるウミガメ卵の孵卵温度が変わってしまうという影響についてです。
ELNA活動地では孵化後の巣をすべて掘り返して調査をしています。実際卵があった場所の砂を目の前で見ているわけですが、マイクロプラスチックが多い印象はありません。もしかしたらマイクロプラスチックも含まれているのかもしれませんが、それに気づかないほど含有量は少ないのでしょう。なので、孵卵温度に影響を与えるかどうかという点では、ELNA活動地ではマイクロプラスチックによるの影響は今のところほとんど影響ないと考えています。

孵化した後のウミガメ巣を掘る作業風景

ただ、このような懸念がある以上、実際どれだけのマイクロプラスチックがウミガメの産卵海岸の砂にあるものなのか、気になるところです。現在、これについてウミガメにおける全世界のプラスチック影響の現状を積極的に取りまとめ・研究しているイギリス・エクセター大学のBrendan Godley教授の学生が世界各地から砂を集めて研究を進めています。ELNAからも小笠原産卵地の砂サンプル採取を2019年に協力しました(許可の問題、また他組織が既にジャワ海周辺で提供していたので、インドネシアの活動地からは採取しませんでした)。結果はまだ出ていないですが、世界の産卵地のマイクロプラスチック含有量の実態が明らかになる日は近いです。

とりまとめ

以上、ウミガメの産卵地におけるゴミ問題について、インドネシアでのELNA活動地の実態を元にお伝えしました。
総括するとELNAのタイマイ保全地域では、海岸にごみは大量に漂着するものの、海岸にあるゴミによるウミガメたちへの実際的な悪影響は感じないという現状です(少なくとも現在は、個体群の減少にはつながるほどの影響は無い)。
状況は地域によりますので、あくまでELNAのタイマイ保全地域においての話しとご理解ください。

いずれにしても海洋ゴミはさまざまな生物への影響も懸念されますし、ゴミが落ちている状況は見た目にも美しくありませんので、ゴミがないきれいなビーチになってほしいものです。
ELNAではこれからも産卵地でのビーチクリーンも適宜実施しつつ、ウミガメへの影響についても、特に個体群レベルでの影響について実態を解明していきます。

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参考 <ELNAの海洋ゴミ関連調査への取り組み>
・関東に漂着・混獲されたウミガメの人工物誤食やマイクロプラスチック調査を実施しています
・小笠原に繁殖来遊する成熟アオウミガメにおけるプラスチック等による影響、マイクロプラスチック調査も実施しています

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