オサガメはなぜ減ったか
僕個人としては、これはあまり書きたくないテーマである。2004年科学雑誌「Nature」にメキシコとコスタリカのオサガメの減少原因は、マグロ延縄漁であると糾弾され、日本政府の反論はことごとく掲載を却下された。この当時、1200隻のはえ縄船が世界中で操業していた。メキシコは1980年頃、30,000頭もの繁殖雌ガメが産卵する世界最大のオサガメの繁殖地であった。現在では50頭にも満たない。衛星発信機を装着し、その回遊経路が明らかにされ、標識の再捕率が50%に満たないことから、はえ縄漁による混獲が減少の原因とされた。
2004年、マレーシア政府はトレンガヌ州のランタウ・アバンを中心に産卵するオサガメの絶滅を宣言した。1960年代には10,000巣以上の産卵がみられたところである。オサガメは1シーズンに5回くらい産卵するので、産卵雌ガメは2000頭ほどいたことになる。
世界的にみるとオサガメの繁殖地は、3つの大洋の東西に存在する。太平洋では、メキシコ・コスタリカとマレーシア・インドネシアである。大西洋ではブラジルからカリブ海地域、ガボンを中心にアフリカの西海岸、インド洋では、アンダマン・ニコバル諸島とアフリカのトンガランドを中心とした地域である。これらの繁殖地のうち、メキシコ・コスタリカ・マレーシアのみが激減し、インドネシアやインド洋の個体群は減少傾向にあるものの急激な減少は見られない。また、大西洋ではむしろ増加傾向にあるが、カリブ海地域では繁殖地の移動や拡散がみられている。
ここで、疑問が生じる。延縄漁は世界中で操業されている。それなのに、なぜマレーシア・メキシコ・コスタリカの3か所のみが激減したのだろうか。むしろ、この3か所の共通点はないのだろうか。マレーシアの東部には300kmの海岸が東西に広がる。そのほぼ中心にランタウ・アバンがあり、オサガメの産卵はこの南北2マイルに集中する。メキシコやコスタリカも産卵場所が限定されている。これらの地域のオサガメは大西洋のオサガメのように繁殖場所を変えることができない。つまり、これらの地域のオサガメはキーポイントとしての産卵場所を維持しているのである。これは移動できる場所がないことを意味する。ここ4-5年前まで、最大の産卵数があったスリナムとフレンチ・ギアナ国境に流れるコーランタイン川の河口の砂州では、1970年頃、オサガメはほとんど産卵していなかったが、急激に増加し一時は4万頭を超えていた。しかし、この砂州が近年泥濘化したため、オサガメは産卵場所を変えた。その多くは、トリニダッド・トバゴに移動したのである。
上記の視点はオサガメの保全を考えた場合、非常に重要なキーとなるのである。しかし、これに気付いている人は、今のところ見当たらない。この続きは、この文章の最初に戻る。僕の中ではあまり触れたくない事項なのであるが、皆さんのご要望があれば、この続きを書こうと思う。カメ界の、僕ら自身の恥部、エゴと無知・感情と思い込み、をさらけ出すことになるだろう。