僕らのできること、気づくことの大切さ(No.39)

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8月に小笠原に行った。全く進まない台風12号のおかげで、予定していた調査も全く進まない。その反面、新しいことに気づかされた。父島の南西にジョンビーチという海岸がある。スナガニによるカニ害や水没でふ化がほとんどみられなかった海岸だ。1980年代は年間5巣くらいしか産卵がなかったのだが、この約500個の卵からわずか3頭くらいの稚亀しか海に入れなかったのである。それが、近年になって産卵巣数が増えてきて、今年はふ化率が60%以上の産卵巣もみられるようになった。ジョンビーチに限らず、カニ害の多かった海岸でもカニ害率が低下している。なぜ、ふ化稚ガメが生産されるようになったのだろう。逆に、風光明媚な南島の海岸では、これまでほとんどカニ害がなかったのだが、今年になって急激に増加した。

話は変わるが、小笠原では、産卵された卵の場所を探すのに、建築材の鉄筋を使用している。産卵時に卵は親ガメによって踏み固められる。鉄筋を使用すれば、最初は柔らかく、奥に入るにつれてだんだん砂は固くなり、卵の間近まで刺すと急にスポッと抜けたようになる。そのスポッのスで鉄筋を止めれば卵を割らずに済む。しかし、これがなかなか難しく最初のうちは卵を割ったことすら分からない。また、サンゴダストや砂利石だとさらに困難度は増す。世界的にみると、鉄筋を使って卵を探すのは、卵を密漁する人たちだけである。彼らは、わざと卵を割って卵のありかを探すのである。小笠原以外では、産卵を観察して卵の位置出しをするが、小笠原の様にポケットビーチと呼ばれる小さな浜が50か所もあり産卵地では、全部の海岸に人を毎晩張り付けるのは不可能であり、全体の産卵巣数を知るために鉄筋を使った調査方法をとっている。

再び話が変わるが、父島の町のすぐ脇に大村海岸という海岸がある。この海岸は街の明りによって、ふ化稚ガメが海に行かず街の方に行き、側溝に落ちたり、車にひかれたりするため、やむなく卵の移植を行っている。当然、移植には様々なリスクが伴うわけだが、性比の偏りという最も大きなリスクを回避するために、性が決定された後に移植している。産卵後35-45日後である。このようにリスクを考慮して移植をしている例は、他の場所ではまだ聞いたことがない。これまで移植するときは、卵の位置をメジャーで確認して、穴を掘り、穴の中に手を突っ込んで、指の感触で卵を一つずつ取り出して、発泡スチロールの箱に移動して移植をしてきた。

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