ウミガメ調査での感動(No.20)

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明日(2006年11月29日)から、インドネシアに行く。タイマイの調査である。調査というと標識をつけたり、ふ化率調査を実施したり、ウミガメの研究のためにデータを取ることを思い浮かべるだろう。でも、今回は島の掃除に行く。掃除も調査の一環となるのである。

一昨年、セガマ・ブサール島というところで海岸清掃をした。海岸清掃と言っても内地で行われているゴミ拾いのようなものではないし、重機を持ち込めるわけでもない。巨大な流木が海岸のあちこちに打ち上げられている。中には径が1mを越すような大木が半分以上も砂に埋まっているものもある。また、島で成長している巨木が海岸に倒れたりしている場合もある。流木は掘り出し、チェーンソウで転がせる大きさまで小さくする。倒木は産卵の妨害になっている枝を、鋸を使って払う。よい材質の場合は板を作り、監視小屋を建てるときの壁材や床材になったりする。

セガマ・ブサール島で海岸清掃を行った結果、何が起きたか。それは僕にとって感動ものであった。それまではタイマイの多くの産卵巣が満潮時の高波で水没していた。流木があるとタイマイはそれ以上先に進めなくなり、海に戻るか、流木の前で産卵してしまう。ウミガメが産卵せずに帰海する場合は、流木の長さだけ産卵海岸がなくなっていると解釈できる。例えば、5mの流木が50本(実際にはそれ以上ある)あると、250mの海岸が消失したのと同じだ。島の周囲1000mほどしかないので、4分の1の海岸がなくなる。ところが、たちが悪いとにこのようなところに何頭かのウミガメは産卵してしまうのである。砂がなくなるような場合には、産卵は起きない。そして、卵は高波を被り窒息死してしまう。つまり、産卵海岸が消失するのと卵の死亡という悪影響が両立してしまう。最もたちの悪い例は、流木が草付きと砂浜の境目に埋まっている場合だ。流木は砂浜と草付きの境目に、まさに階段を形成しカメの行き先を阻む。また、草付きの中の枯れ葉や折れた小枝も取り除く。このように砂浜や草付きの中を清掃すると、タイマイは草付きの中まで行くようになり、全体のふ化率が感動的に上昇する。まさにそれはしびれるほどの感動である。

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明日(2006年11月29日)からのインドネシア調査では、モンペラン島というところに行く。ジャカルタの北300kmのところに直径80kmほどのブリトン島という島があり、その北西にマンガルという町がある。その町から70km西北西にその島はある。漁船で6時間ほどかかる。モンペラン島は周囲800mほどの東西に細長い島である。幅は最もあるところでも30mほどしかない。この島にはアルカンさん一家だけが住み、産卵巣の監視をしている。アルカンさん一家は娘4人、息子3人の7人の子沢山だが、すでに上の2人の娘は結婚して島にはいない。一番下の娘は島生まれの4才。そう、誰の手助けもなく、一家の協力で生まれてきた子なのである。子供たちは学校に行っていない。家も手作りで北面の海岸の浸食に伴い、少しずつ移動させている。この周辺では常に北東の風が吹き、島は南西に少しずつ移動している。島もその上に建つ家も、自然現象によって移動しているのである。この島には大木が島の真ん中に1本あるだけだ。そしてタコノキが腐るほど繁茂している。タコノキの名前の通り、茎の下の方は何本も枝分かれし、まるでタコの足のようである。これが始末に悪い。アロエの葉を薄っぺらにして長さ80cmほどにするとタコノキの葉になる。しかし、葉の両側にある棘は細かく密生し、鋭く刺さる。この葉はタコノキ細工として知られており、乾燥させると丈夫でなかなか腐らないのである。ふ化率調査の時など手や足に棘として刺さり、擦り傷が耐えない。枯れ葉が堆積するとウミガメも穴掘りができなくなる。しかも、下草も生えなくなる。島の内陸部はウミガメからみると全て産卵適地の草付き部であるが、ここがタコの葉で覆われてしまっている。もともとインドネシアの島にはタコノキはほんの数えるほどしか自生していないが、人が入植すると薪で木は切られ、薪として利用されないタコノキは勢いを増し、島を覆ってしまう。モンペラン諸島は、僕らが産卵巣の管理をする前は、密猟者が交代で卵を取っていた島で、タコノキだらけの島になってしまった。1996年に初めてこの島の調査をしたときは、これほどタコノキはなかった。草付き部の草も生えなくなったことにより、波の浸食が防げず、島の浸食はより加速される。それにより北側の海岸はタコノキの根の影響により1mほどの浜がけができ、もはやウミガメの産卵海岸と呼べる状況ではなくなっている。

今回はこのタコノキの枯れ葉を取り除く。近い将来には本来の島の植生に戻す予定でいる。このような活動がウミガメの自然ふ化率を向上させることに繋がる。海岸に草が生えれば浜崖はなくなり、タコノキの葉の堆積がなくなれば、タイマイやアオウミガメはもう少し奥に産卵できるようになり、水没卵は減り、ふ化率は向上する。さらに植生が回復すれば、理想的な、僕にとっては感動的な、タイマイの繁殖地となるのである。この感動をいろいろな人に味わってもらいたいと思う。(「ウミガメ調査での感動」了)

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