- ホーム
- ウミガメの独り言(黎明編)
- ウミガメの将来 -理想と現実(No.10)
ウミガメの将来 -理想と現実(No.10)
今年の5月にハワイでタイマイとオサガメのワークショップがあった。Western Pacific Regional Fishery Management Councilというアメリカの海洋漁業省の下部組織からの招待だった。インドネシアに係わっているおかげで、タイマイとオサガメの両方のワークショップで発表したのだが、結果としてアメリカの海洋漁業省と一戦交えることになったのである。事の始まりは、インドネシアのパプア州でやっているオサガメ保護プロジェクトの一環で、アメリカも日本も行っているプロジェクトで、オサガメに発信を着け、それを衛星で追跡するというものである。アメリカは昨年10台の発信器を装着、日本は2台であった。僕はワークショップの時に「今年はパプアで何台着けるんだい?」と聞き、「去年と同じ10台だよ。日本は何台だい?」「同じく10台。会わせて20台なら、かなりのことがわかるじゃん。もちろんお互い協力してやらなきゃね。」「そうだとも。」というような会話が、ハワイの美しい風景の中で行われた。
東部太平洋のオサガメは、この10年あまりで95%が減少している。現象の原因は、延縄漁とされている。西部太平洋でもマレーシアではオサガメはほぼ絶滅状態にある。昨年はたった2巣しか確認されていない。そんな中、インドネシアのパプアは、仏領ギアナとスリナムの個体群、アフリカのガボン、その次の3番目の規模を持つ大きな繁殖地である。年間2500-3000巣の産卵が、まだみられている。2000年4月以降、僕らとWWF-Indonesiaは、そこの繁殖地で表面上協力してモニタリング調査を行ってきた。しかし、WWF-Indonesiaはイニシアチブをとろうとして、昨年からアメリカ政府から莫大な資金提供を受け、現在は全く独自で活動を行っている。きっと、それはアメリカの戦略なのだろう。僕らは、黙々と野生ブタの食害防止やシステム化したモニタリング調査を継続している。そしてさらに、今年は世界で4番目の規模を持つインドのニコバル諸島においても、オサガメの衛星追跡調査をやる計画を立てていた。
先月、6月にオサガメの繁殖地であるパプアに行った。そこで聞いた言葉に僕は唖然とした。インドネシア林業省自然保護局ソロン支局の担当者から「アメリカは今年、20台発信器をつけるそうだよ。」「・・・・・」そしてさらに追い打ちがあった。
続きを読むジャカルタに戻ってから、インドのニコバル諸島で一緒にやる研究者からのメールで、ニコバルで発信器をつけるなら、ちょうど良い機会だから7月にパプアで発信器の装着を行うから、装着の研修に招待するとアメリカの海洋漁業省から言われたので、行く予定だと書いてあった。さらに、僕らのインドのプロジェクトを日本とインド、アメリカの共同プロジェクトにしろという要請もあるがどうするかとも書いてあった。要請を受けなければ、来年からアメリカは大々的にニコバルで僕らとは別に衛星追跡をやるだろう。
アメリカは、パプアのオサガメのモニタリング調査で、WWF-Indonesiaと僕らのデータの数値の違いから、WWF-Indonesiaのデータに疑問を持ち始めている。パプアの産卵巣数を彼らは3600巣といい、僕らは2500巣と公表している。そのため、どうも直接勝負に出ようとしているようだ。発信器を20台にしたのも、アメリカなりの焦りがあるのだろう。さらに、僕の方にも直接、「アメリカ政府のお金をもらうつもりはないか。」と打診があった・・・。
僕は、お金で全てを支配しようとするアメリカ政府と闘わざるを得ない状況に追い込まれている。そしてその戦いを半ばあきらめの気持ちで受け入れるつもりである。アメリカは延縄漁業がオサガメを減少させている主要原因として将来国際問題に発展することを見越しており、全てのイニシアチブを奪い取ろうとしている。僕は、このようなやり方を容認できないでいる。それは、アメリカ政府がオサガメの資源回復という根本問題を忘れ、資源減少の責任を他国に押しつけることで、結果として、良い子であろうとする態度が許せないからである。今なら、インドアシアもインドもオサガメ資源を回復できるチャンスがある。それは決して、延縄漁業だけを禁止すればよいという話ではない。オサガメ資源の減少という事実を政治的な問題にすり替え、現実的な資源回復仕法を無視するやり方に納得できないのである。そもそも、アメリカがやっている衛星追跡調査もオサガメの回遊経路と延縄漁場との関連性を裏付けようとするものなのだから。
ただ、ここで言うアメリカという言葉は、アメリカ全部を指すのではなく、あくまでもオサガメに関するアメリカの人々の、アメリカ国内でこの問題でイニシアチブをとっている関係者という意味である。事実、アメリカ国内も二つに割れている。こんな事で挫けている場合ではない。僕は密かに、別のプロジェクトの立ち上げも計画している。もちろんまだここには書けない。(「ウミガメの将来 -理想と現実」了)