僕らは本当にウミガメの絶滅を防げるか(No.33)

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今年は、2月のオーストラリアの国際ウミガメシンポジウムから始まった。その後すぐに、インドネシアの地震被害状況視察に行き、戻ってきた数日後には雪の函館にたたずんでいた。ウミガメとは全く縁のない雪の中にたたずんでいると、まるで窓の外からウミガメを見ているような気になる。環境とは不思議なものである。函館へは水産庁の混獲会議に出席するために行った。着いた日の夜、数年前に日本のアオウミガメの遺伝的関係の卒論を書いたY君と飲んだ。彼は、大学を卒業後函館に住んでいる。この卒論は、僕自身を飛躍させてくれ、僕にとってウミガメを考える上で転機となるものであった。この論文によって、小笠原、関東のストランディング、インドネシアのカメ、これらが僕の中でリンクしたのである。ELNAのそれぞれの事業が繋がりあっていると、キッチリ言えるほどの自信を与えてくれた。僕は密かに、この卒論をなんとか世に出したいと思っている。密かにと言っても、本人にはちゃんと話はしてある。この話をしながら、不覚にも僕はその居酒屋で寝てしまった。この居酒屋、函館では結構有名なところらしく、確かにツマミもうまかった。でも、酔った。次の日からの会議よりも、Y君とのほんの短い時間(もちろん僕が寝てしまったからであるけど・・・)の会話の方が、充実感があったし、中身の濃いものでもあった。Y君のお相手は田中に任せて、ひとり凍った道で転ばないようにトボトボとふらつきながらホテルに帰った。全くひどい話だ。人を呼びだしておいて、かってに酔っぱらって寝てしまい、挙げ句の果てにお先に失礼、きっと彼に会って一気に燃焼してしまったのだろう。ちょっと、言い訳がましいか。まあ、時間には関係なく、おいしいお酒だったのです。

混獲会議は、正直言って、僕自身の中に方向性が見えてこないものであった。会議の趣旨は、「漁業による混獲を減らして、日本の漁業を守る」である。この趣旨には賛同できるのであるが、そのためにやらなくてはならないことは何か、押さえるポイントはどこにあるか、それが僕には見えない。僕らはウミガメを通して、貢献しようとしているけど、ズレを感じてしまう。人が活動すれば、必ず自然に対して影響を及ぼす。その影響を小さくしようとするのは分かるのだけど、どうもその影響が悪いものだという気持ちを持ったり、無視したりする傾向が見え隠れする。挙げ句の果てに延縄の釣り針がかかっても、飲み込んでもカメにはほとんど影響がないという実験までしている。このような責任転嫁的な実験は必要なのであろうか。少なくとも、混獲の影響を減らすという明確な目標があるならば、カメにとっての悪影響を自分の目の前にきちっと据えて、その事実を認めることが必要だと思う。

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ウミガメに関していえば、不思議なことに、どのくらい混獲されているか数値が出てこない。混獲されるカメの数は、当然その資源量や漁業努力量によって左右されるだろうし、その傾向がどうなっているか判らないと、混獲を減少させる努力も評価できない。少なくとも、年間の混獲数(率)だけでも、どのように変動しているのかを出す必要がある。混獲の影響と、カメの生産量との関係が明らかにならない限り、この問題は解決されない。それぞれの国には、それぞれの思惑があるのは理解できるけど、口で騒いでいる限りは何も解決しない。延縄漁の混獲が原因で減少したといわれているオサガメは、世界中で絶滅の危機にあり、すでに地域的に絶滅した場所もある。パプアでも減少している。僕らはオサガメの生産量をなんとか算出しようとしている。最も早く手を着けたジャムルスバメディ地区では、生産量を出すのに8年も要している。産卵位置を特定することができなかったからだ。産卵された卵の場所が判らなければ、ふ化率や死亡原因も分からない。年にどれくらいの産卵巣が流失しているのか、何巣の卵が野生化したブタに食害されているのか、これらのことが判らなければ、何頭の稚ガメが海に入ったか、当然の事ながら判らないのである。

僕らがパプアでやっていることは、ふ化率調査のために掘り出しのできる産卵巣の数を増やすことである。つまり、産卵巣の位置を、地元の監視員が的確に示すことができる状態を作っていくことである。それができて初めて、ふ化率調査ができる。産卵された卵の所に番号札の付いた棒を立てる。ただ、これだけのことに8年も要した。ウェルモン地区の方は4年でできた。この差はどこにあるのか、でも4年だって間違いなくかかりすぎだ。どうもカメに関わると、人はおかしくなるらしい。(「僕らは本当にウミガメの絶滅を防げるか」了)

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