僕らが増やしたわけではない①
このシリーズの最初に、僕は「オサガメを絶滅から救えるのは僕らしかいない・・・」と書いた。この文章を読んで、「アホか、こいつら。」とか、「そんなにエルナって偉いんか。」とか、「自信過剰。話にならん。」とか、大半の人はそんなふうに思ったに違いない。僕がなぜそれを言えるのか、そのことについていくつかの話題を取り上げながら書いてみよう。
まず、ウミガメに限っていうと、人が積極的にかかわってその数を増やしたのは、世界で唯一の繁殖地であるメキシコのランチョンヌエボで産卵するケンプヒメウミガメ、底曳トロールで混獲され激減していたこの種を、TED(Turtle Exclusive Device;ウミガメ排除装置)をトロール網に装着することを法律化したり、それをカリブ海およびメキシコ湾沿岸諸国に義務付けたり、テキサス沖の底曳トロールの禁止区域を設けたり、徹底した混獲防止対策を行った結果である。さらにケンプヒメウミガメの繁殖地を増やすために、メキシコから卵を移植し、アメリカのテキサス州、パドレ島でヘッドスターティング(ふ化稚ガメの短期育成)したケンプヒメウミガメを放流し、新たな繁殖地を開拓した。フロリダでは30年間にわたり、年間10,000頭のアオウミガメを1年間飼育(ヘッドスターティング)し、ほとんどフロリダで産卵していなかったアオウミガメの産卵巣数を、5,000巣を超えるまでにした。人の大規模な介入で繁殖数が増加しているのは、これらの地域だけである。これらの中身を見てみると、ヘッドスターティングにより新規の繁殖地を増やしたものと、徹底した混獲防止によるものである。ここで重要なことは、種の資源量を増加させるという本来の意味での人の介入という意味では、ヘッドスターティングだけがそれに相当ということである。さらに、今後このシリーズでも今後言及していくが、ヘッドスターティングと卵の移植は全く意味が違うことを理解する必要がある。
混獲防止は、その意味では人の積極的な介入とは言えない。まさにエルナが繁殖地で行っている、人間活動の影響をいかに排除するかという、ウミガメの生活史の一部に悪影響を与えている現象を軽減するプロジェクトなのだ。ウミガメを絶滅から守るためには、ウミガメの生活史の中で、人の影響をいかに取り除くかということと、稚ガメの海に入る数をいかに増やすかという、その二点をしっかりと押さえることが重要なのである。
小笠原のアオウミガメは今急激に増加している。最近になってわかってきたことだが、その増加は、第二次大戦で小笠原諸島が23年間にわたりアメリカの占領下におかれ、島民の人口が極端に減少し、捕獲圧が減ってふ化稚ガメの数が増えたことが、増加の要因となっている。つまり、僕らは小笠原のアオウミガメの増加には、何も関与していないのである。そして、1910年から30年間にわたり人工ふ化放流が行われていたが、それは現在の増加には、関与していないことがわかりつつある。