ウミガメを守る
ウミガメというと、ほとんどの人は「ああ、それって海に いるカメ!?」、「水族館で見たことがある」で終わってしまう。海岸に打ちあがって死んでいるウミガメをみて、「かわいそう」、「涙が止まりません」、 「ウミガメには罪がないのに人が殺しているの?」という言葉がよく聞かれる。ウミガメの死体を見て、人はドラマを見ているような感想をもらす。僕は、その 光景にウミガメと人との間に、見えないけどお互いに入り込めない壁を感じてしまう。エルナがウミガメについてこれまでやってきたことをもっと発信していれ ば、そんな壁なんかできなかったに違いない。
ウミガメは、現在7種に分類されている。ウミガメを論じる場合、これらの7種 を一緒にして論じることはできないが、誰もそれを区別して論じようとはしない。いや、論じることができないのだろう。なぜなら、人はウミガメのことなどほ とんどわかっていないのだから。ウミガメに対して「保護」という言葉の看板をかかげていれば、世間的には、それで完結する。ウミガメが減少しようが、関東 周辺だけでも年間150頭 もの死体が打ちあがろうが、オサガメがマグロはえ縄漁で絶滅に瀕していようが、「僕らはウミガメを保護しています」という言葉で、世間は暗黙の裡に認めざ るを得ないのである。机上の空論というより世間話程度のことなのだが、それが現実としてウミガメの世界を支配している。
静岡県の御前崎や徳島県の美波町日和佐浦に上陸するアカウミガメは天然記念物になっている。人は、天然記念物と聞くと、それは貴重なものであり、ちゃんと保護されているものと思ってしまう。天然記念物の管轄は文化庁であり、市町村の担当窓口は教員委員会である。
ウ ミガメを守ろうと思うのならば、様々なこれまでの情報を収集し、片っ端から論文を読み干さなければならない。しかし現実は、ウミガメのことをいくら現場で 調査しても、ウミガメを守ることはほとんど不可能に近い。僕らにとって守るというのは、けがをした個体を捕獲して治療したり、稚ガメを保護するという名目 で飼育したりすることではない。新聞などを見ていると、定置網にかかったウミガメを水族館が保護したという記事がよく出ているが、それは保護でもなんでも ない。すぐに放流すればよいことで、飼育する意味合いなどウミガメからみれば何も益はない。けがをしていれば、それは個体の治療であり、個体のリハビリの 意味の飼育でしかない。地理的、遺伝的に区分できる「種を絶滅させない」、これが僕らの言う「守る」ということである。