絶滅危惧種アオウミガメ保全活動報告
(伊藤忠商事(株)様ご支援)

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エバーラスティング・ネイチャーでは、小笠原事業所で行うアオウミガメの保全事業に対して、伊藤忠商事株式会社(本社:東京都港区北青山2丁目5番1号)様よりご支援を受けております。12月に入り、産卵巣のふ化率調査もすべて完了し、2017年のアオウミガメ産卵巣数およびふ化率の概要がまとまりましたので、ご報告いたします。

生物多様性の中のアオウミガメ

高い固有種率を有する小笠原諸島は、太平洋域におけるアオウミガメ産卵地の北限にもなっております。一定規模を誇るアオウミガメ産卵地としても知られ、多くの産卵地で絶滅が危惧される中、ウミガメ産卵数が近年増加している数少ない産卵地としても注目を浴びています。

アオウミガメの保全は絶滅危惧種保全という部分に注視しがちですが、実は生物多様性の保全においても重要な意味合いを持っています。第一にその食性に注目しますと、アオウミガメは海草や海藻類を主食としていることから海の中の草食動物の役割において藻場の健全な育成に寄与しています。そして、最も注目すべき特徴は、ウミガメは海と陸を行き来する海棲動物というところにあります。アオウミガメが陸に上陸するのはメスが産卵する時が主ですが(日光浴のための上陸もあります)、その産卵上陸の行動により海中の栄養塩や有機物が陸上に運ばれ、陸上の生物相にも影響を与えています。また、産卵行動の1つである砂浜に穴を掘るという行為は、砂浜の他の生物相にとっては攪乱となり、生物の種間競争や競争的排除を緩和することで多様性の維持にも貢献していると考えられます。小笠原諸島には大きな台風がたびたび襲来しますが、そうした台風でもあまり減少することのないグンバイヒルガオ(砂浜を覆いつくすように繁茂する)は、アオウミガメの産卵行動により一時的に消滅したりします。こうした事象に関する研究はあまり多くないですが、アオウミガメが陸上の生物相にも大きな影響を与えていると当団体では考えています。

小笠原のアオウミガメ産卵海岸

小笠原のアオウミガメ産卵海岸

草本の下に産卵された産卵巣

草本の下に産卵された産卵巣

産卵モニタリング調査および
ふ化調査の結果概要

調査概要

父島列島の約30海岸、母島列島の約10海岸、聟島列島の約10海岸を対象に定期的に海岸踏査し、各産卵状況をモニタリング調査しました。小笠原諸島におけるアオウミガメの2017年の初産卵は4月20日前後に確認され、そこから産卵が終了となる8月中旬までの約4か月間、合計約50海岸で調査が実施されました。その後、卵のふ化を待って、モニタリング調査時の位置情報をもとに再び海岸に赴き、ふ化状況を確認するために卵の掘り出し調査を実施しました。ウミガメのふ化は産卵から約2か月かかりますが、ふ化した順に掘り出し調査を進め、12月中旬にすべての調査が完了しました。延べ調査回数は364回となり、それに費やした調査人員は延べ1,178人となりました。

アオウミガメの産卵上陸跡

アオウミガメの産卵上陸跡

産卵巣の卵を探すスタッフ

産卵巣の卵を探すスタッフ

調査結果

未公表データであるため、数値は概数で報告いたします。
2017年は、父島列島で約2,000巣、母島列島で約500巣、聟島列島で約50巣のアオウミガメ産卵巣が確認できました。2016年と比較すると、いずれの列島でも減少となりましたが(前年比約70%)、2015年と比較すると、いずれも増加しており、小笠原のアオウミガメの増加傾向は継続していると推測されました。合計約1,500巣に対して、ふ化後のふ化率調査を実施したところ(調査率:約70%)、小笠原諸島では約60,000頭の子ガメが海に帰っていったと推測されました。理論的な脱出率(卵数に占める脱出子ガメの割合)は、父島列島および母島列島で約35%、聟島列島で約30%となり、いずれも卵の発生途中で死亡したり、他の生物の食害を受けたりして、無事にふ化して海に帰っていく子ガメがあまり多くないことが分かりました。

ウミガメは寿命が長い動物とされ、成熟にも長い年数がかかると推測されていることから、個体数動向の把握や保全には数十年スパンでの取り組みが必要となってきます。また、海洋を広く回遊するゆえ、その生態は解明されていない部分が多い動物でもあります。調査や保全の努力量がすぐに個体数増加に現れないもどかしさはありますが、外部や他分野の研究者との共同研究体制を構築しつつ、今後も謎の多いウミガメの生態解明、そして保全に広い視野で取り組んでいく予定です。

脱出直後の子ガメ

脱出直後の子ガメ

カニの食害を受けた産卵巣

カニの食害を受けた産卵巣

アリの食害を受けたアオウミガメの卵

アリの食害を受けたアオウミガメの卵

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